荻野彰大氏: 2024年度日本造園学会賞(設計作品部門)
「福武トレス 〜旧福武書店迎賓館庭園再生と新築棟への展開〜」
荻野彰大氏
本設計は、1985年に施主の福武美津子の父である福武哲彦と小形研三が手がけた、既存の木造数寄屋建築を有する「旧福武書店迎賓館庭園」の復元と共に、ギャラリーを構えた鉄骨造の新築棟周辺に新たな庭園を創造した作品である。
復元は、当時の地割りや樹木の枝ぶり、独特の苔のラインにいたるまで忠実に再現することで小形氏の作庭感覚を継承しつつ、音を楽しませる滝組等、秀逸な創造的復元が散見される。加えて、岡山の気候風土や庭園の背景となる半田山の植生を参考とした植栽計画による適地適木の植栽や、植物ごとの特性に合わせた土壌改良の実施、根茎による斜面保護のための柱状改良の実施等、状況に合わせた施工により庭の維持管理を行いやすい形にしている。
新たに創造された新築棟ギャラリー周辺の庭園では、新たな自然との調和をコンセプトとした「森の中に溶け込む建築」が実現されている。基礎工事後、躯体施工前に床下部の造園を行う等、建築と造園を交互に施工することによって建築と庭園をつなぐ境界が融和され、一体化した空間を提供することに成功しており、現代の新しい庭園スタイルを確立している。未就学児の入場規制やバリアフリー未対応といった点はあるものの、今後の庭園の維持管理に対しても明確な戦略を持っており、時間の経過が味となる継承を期待したい。
以上より,学会賞(設計作品部門)を授与するに相応しいと判断された。