進士五十八氏: 2024年度日本造園学会賞(著作部門)
「進士五十八の日本庭園 技心一如で自然に順う」
進士五十八氏
本書は、庭園の特質を「人間の理想郷を目標とした環境デザイン」とし、そのなかでも日本庭園は「自然共生の造園思想」に独自性があるとする。結果、いわゆる日本庭園を軸としながらも、神社仏閣の在り方から農山漁村のランドスケープ、現代アーティストの作品まですべてを庭園の範疇として、その根底に流れる自然共生思想をもってこれからの造園の在り方とその具体的方策を提案している。日本庭園の枠組み・概念を大きく広げた点について、高く評価できるものと考える。
日本庭園の書というと、時と場所によって変化する庭園様式を追うのが一般解だろう。それは、歴史学の一角を担いながら、庭園の作庭背景や造形に共通に認められる一定の在り方を評価しようとする姿勢である。それに対して本書は、様式に収めるのではなく、多彩な気候風土に根ざす日本庭園の多様さが大事だと説く。生物の多様性や人の生き方の多様性を求める現代において、現在の課題認識に立ちつつ、未来の理想像を思い描きながら、古代から現代にかけての庭園の思想と技術を読み解いていることに、著者の独創性と革新性がある。
また、本書は日英の二か国語版として出版されている。写真や図、その解説も豊富で、世界に対して広く伝わることを重視していることが読み取れる。日英の両方を読むことで本書の内容をより理解できる点も意義深い。
以上より,学会賞(著作部門)を授与するに相応しいと判断された。