東京都建設局公園緑地部 東部公園緑地事務所: 2023年度日本造園学会賞(事業・マネジメント部門)
東京都建設局公園緑地部 東部公園緑地事務所
太政官布達公園の再生整備〜上野恩賜公園再生基本計画に基づく公園の再生と活用〜
本事業は,太政官布達公園であり,約150年の歴史を有し,かつ我が国を代表する都市公園である,東京都恩賜上野公園の再生整備である。事業マネジメントの対象としては,2010度の企画立案段階から2020度までの整備,さらに,その後の管理の実施が含まれる。事業に先行する2004年に東京都が作成したパークマネージメントプランにおいて,単に上野公園単独の再整備ではなく,都立公園全体の価値向上において中心的事業として行われてきた先導性・モデル性が求められており,その実現が意図されている。また,上野公園は東京のみならず日本の文化発信拠点の一つとしての役割や,地元住民の健康運動などの活動を支える役割などを持っており,そうした多面性への配慮も求められたと思われる。
事業主体である東京都は,将来を見据え,価値を創造することを目的におきつつ,外部組織として上野公園グランドデザイン検討会をおき,作業部会を設置して専門的な議論を行うとともに,関係行政機関等を委員に位置付け,計画の現実性を担保し,公園審議会等の行政手続きを経るなど,幅広い意見の反映と体系的な計画推進の手法が取られており,大規模かつ包括的な取り組みである。公園内にある多くの文化施設には独立性の高い施設もあるが,世界に向けた文化の発信強化,魅力あるみどりと水の空間創出,快適な利用の推進,という基本的な考え方を明確にして方向性を合わせてゆくプロセスは,特に様々な施設や活動の受け皿・プラットフォームとしての性格を有する類似事業の参考となるものである。
上野駅と上野公園間のアクセス性向上のための駅前道路の移設は,地域行政区の協力を勘案しても,通常事業の範疇を超える事柄が多く,事業マネジメントの成果として特筆される。さらには,公園樹木の適正な管理,歴史的施設の改修,工事中の利用調整などの困難な事柄についても,計画への位置付け着実に実施している。特に,樹木の管理計画は,適切な環境や景観を持続させることを意図したものとして,高く評価されうる。計画段階から東京都の公園関係誌に内容や進捗を掲載するなど,情報の共有や保存に取り組まれたことも評価に値する。
太政官布達公園は,歴史性を有するがゆえに時代の要請に柔軟に応えることが難しいということも考えられるが,その代表的な公園である恩賜上野公園が大規模再生整備を行ったことは,制度制定150年に際して時宜を得たものである。また,重層的な計画,継続的な調整,着実な実施等,多面的に評価されるべきものであり,造園学の発展に寄与するものである。
以上より,学会賞(事業・マネジメント部門)を授与するに相応しいと判断された。