小松良朗・岩田友紀: 2023年度日本造園学会賞(設計作品部門)
小松良朗氏・岩田友紀氏
JR熊本駅ビル
熊本駅周辺の開発テーマが「自然との共生」となっている中,駅前広場に面する駅ビルを「水と緑の立体庭園」としてシンボル空間とすることに成功している。阿蘇の自然風景という景観像を設定した上で,建物内特有の環境での育成を考慮した郷土種の「緑」の展開と,熊本の地域資源である「水」を用いた象徴的な滝によって,アトリウム空間全体を統合している。また,回遊性や滞在性の視点による,訪れる人々の使いこなしを意識した人間サイズのデザインが,安らぎを与えるとともに,商業的目線からも実用性の高い場所を実現している。さらに,建築内での植物の成長も予測した植栽等により,メンテナンスのコストを低減する工夫もみられる。
駅前広場との連続性に欠けることや,滝の水受け部分のディテールに議論があったが,現在行なわれている認知度や快適性の評価と合わせて,人々の活動のつながりや,植栽を含めた詳細部分の状況についても継続的リサーチを行い,空間へのフィードバックを可能にすることを求めたい。水と緑の空間に対して,訪問客の評価だけでなく事業主の理解度も高いと思われるが,今後の植物環境の育成,管理経費の増減,商業的売上げなどの項目のモニタリングについても,作品に含まれるものとして捉えたい。これらのプロセスを含めた作品の展開が,今後の室内ランドスケープデザインに一定の基準を示したことは,有意義なことであり,さらなる意欲的な作品が生まれることを期待したい。市民や訪問客に愛され続ける場所として植物と共に育っていくことを願いたい。
以上より,学会賞(設計作品部門)を授与するに相応しいと判断された。