井上敏宏: 2023年度日本造園学会賞(設計作品部門)
井上敏宏氏
びわこ池田記念墓地公園 近江庭園
やすらぎの場である墓地公園の庭園の本作品は「日本人の原風景の創出」をコンセプトとした,柔らかな心落ち着く庭である。敷地外の背景となる山との関係を丁寧に読み取り借景とし,地形の連続性を高めたことによって,造られた庭とは思えないほどあたかも以前から存在していたかのような空間が表現されている。
背景の山から水が集まり流れ出しているかのような風景のあり方が,石組み,滝落ち,せせらぎと繋がっている流れのなかで表現されている。さらには,重なり合う木々によって実際の敷地規模以上により遠く奥行きを感じることができる。大中小様々な恵那石の構成により,長年かけて水流が生み出したかのように思える風景が構成されており,石を横つかいにすることで平穏な印象を与え,施工後8年ですでに庭石は苔生し庭園の存在に説得力を持たせている。
また周辺環境の植生を調査してこの場所に相応しい植生を選択し,この場所での生育が良好になる樹種を地被植物含めて調和させている。コナラやエゴノキ,カエデ類など雑木を多用し日本の山里の風景が演出され,地被にはスギゴケやフッキソウ,キチジョウソウなどの常緑の緑にリンドウ,カワラナデシコ,ノジギクの草花が彩りを添えて,来訪者は1年を通じて四季折々の風景を楽しむことことができる。水の流れの近くに配置した湿生植物と,石材の間詰などにコンクリートを使用せずに配置された石組みが,自然な風景として調和している。さらに,陸地部分の植栽へと移行するグラデーションのつくり方が,連続性を高めた一体的な風景と認識でき見事な構成美を生み出している。惜しむらくはヒューマンスケールの庭園であるからこそ,人が入って鑑賞できる場所をもう少し多く展開できたらよかったのではないかとも思えたが,ヒューマンスケールの雑木の庭を体現できていることは最も評価できるところである。
以上より,学会賞(設計作品部門)を授与するに相応しいと判断された。