真田純子氏: 2023年度日本造園学会賞(著作部門)
真田純子氏
風景をつくるごはん 都市と農村の真に幸せな関係とは
本書は,景観工学や景観政策を専門としている著者が,農村と社会経済の関係を論じたものである。農村を例にとり社会的な実像を多角的に分析し,多岐にわたる社会活動等との関係を見出している意欲的な著作である。また,著者の徳島在住の実体験はその視点の現実性を高めることに貢献している。
本書では,農村風景という軸を置きつつ,地方と都市に有る密接な相互関係,農村と都市あるいは生産と消費といった分化の思想がもたらす限界を示す。さらに,その風景の混乱は農村の問題だけではなく,その背景にある社会システムの課題でもあること,農業を取り巻く政策や行動の統合の重要性も論じている。
その内容は,著者の農村との出会いから,平易な言葉を用いて時系列に記されている。そのため,読者は現在の農村に対する疑問,取りまく社会の状況,悩ましさ,あるべき姿などを段階的に気づき,その節々で,それらを自分ごととして考えていくことができる。また,問題提起や事例紹介に終わるのではなく,これらに対して,「風景をつくるごはん」というアプローチをもって皆が行動できる提案がある点も評価できる。
景観領域を専門とする著者の思考の軌跡からなる本書は,持続的な暮らしの場をつくること目指す造園学の発展に寄与するものと期待される。
以上より,学会賞(著作部門)を授与するに相応しいと判断された。