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ランドスケープ研究87(2) 日本庭園の継承と発展

日本造園学会誌『ランドスケープ研究』87巻2号を7月末に刊行しました。お知らせが遅くなり申し訳ございませんでした。

特集:「日本庭園の継承と発展」
Inheritance and development of Japanese gardens

様式としての「日本庭園」の成立は奈良時代後期であり,大陸や朝鮮半島の庭園様式を脱して,日本独自の様式の庭園が確立していったとされている。以降1300年間にわたって,自然の一部を生活に取り込んだ住まいの空間,信仰と結びついた 神秘の空間,もてなしの心を織り込んだ愉悦の空間としてなど,多様な庭園が創造され,日本の歴史とともに歩んできた。ユネスコの世界文化遺産に登録されている「古都京都の文化財」,「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―」では,庭園が世界文化遺産の重要な位置を占めていることからわかるように,「日本庭園」は日本の文化的独自性を示すものであることに間違いなく,代表的日本文化としての「日本庭園」に普遍的・世界的な関心がもたれているといえる。また,「日本庭園」の広がりは国内のみではなく,近年では国土交通省の「海外日本庭園再生プロジェクト」(2017~2021),日本造園組合連合会による「日本庭園士」の資格制度の創設や北米日本庭園協会(The North American Japanese Garden Association:NJGA),英国の日本庭園協会(Japanese Garden Society:JGS)の活動など,海外における活動も活発化している。その一方で,日本庭園に関する研究の低調や,日本庭園の施工を担う技術者・技能者や教育機会の減少があり,個々の技術・技能も消失の危機に瀕している感もある。

こうした中で,ユネスコ無形文化遺産への日本庭園の文化・技術の登録の推進する機運があるが,この動きに対応するためにも,日本造園学会に「日本庭園の『こころ』と『わざ』に関する研究推進委員会」が設置され,日本庭園の「こころ」(日本人の自然,風景,空間,美のとらえ方)の把握,日本庭園の「わざ」(日本人の 庭園を形作るための技術・技能)の把握に取り組んできた。本特集は,「日本庭園の『こころ』と『わざ』に関する研究推進委員会」の活動を基盤にしつつ,日本庭園の継承と発展を大きな目的として企画したものである。日本造園学会の100周年も近づく中で,本特集が日本庭園の現在・将来を議論する端緒となれば幸いである。

(特集担当:粟野 隆・上田裕文・水内佑輔)

 

目次

解題

〇特集「日本庭園の継承と発展」にあたって
粟野 隆

総論

〇日本庭園の「こころ」と「わざ」の継承
尼﨑博正

〇日本庭園を未来に発展させてゆくにはどうしたらよいか?
井上剛宏

論説

〇日本造園学会学会誌における日本庭園研究のレビュー(1925-2022)
井原 縁・福井 亘・竹田桃子・小池辰典・水内佑輔

〇日本庭園の原点としての『作庭記』
飛田範夫

〇作庭記と園冶の世界
張 平星・福井 亘

報告

〇日本庭園の「わざ」(伝承造園技術・技能)とは何か?
粟野 隆

〇石の仕事
井上勝裕

〇水の仕事 -東京都立の文化財庭園に見る池泉の「わざ」
高橋康夫・小沼康子

〇木の仕事
山田拓広・藤吉信之

〇竹の仕事
寺石隆一・井上花子

〇文化財庭園保存技術
吉村龍二

〇ポートランド日本庭園トレーニングセンターの取り組みとそのビジョン
内山貞文

〇欧州日本庭園協会とヨーロッパにおける日本庭園をめぐる状況
水眞洋子

論説

〇日本庭園のフォスタリング―マネジメント・人材育成
加藤友規

座談会
〇日本庭園に関する高等教育座談会
加藤友規・牧田直子・沈 悦・高宮さやか・坂水元也・栗原正博・粟野 隆・上田裕文・水内佑輔

※発刊からおよそ3か月後に、執筆者の許諾が得られた記事はJ-STAGEにて公開しております。