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ランドスケープ研究86(3) 公園と子育て・子育ち:公園を舞台とした地域の課題解決

日本造園学会誌『ランドスケープ研究』86巻3号を刊行しました。

特集:
「公園と子育て・子育ち:公園を舞台とした地域の課題解決」
Urban park for child rearing and child growth: Solving local problems through urban park

都市公園は,子どもの健全な発育,仕事と子育ての両立,地域コミュニティの醸成,レジリエンスの向上など,豊かな地域づくりなどの地域課題の解決に資するグリーンインフラとして期待され,各地でそのあり方が模索されている。しかし三大都市圏への人口集中に伴う待機児童問題の解決に向けた公園内保育施設建設による公園機能の制限,子どもの健全な発育を地域で支えていくという地域課題をめぐっては,子どもの声を騒音とするもの,画一的な利用ルール,遊具老朽化に伴う撤去など,子育て(子どもの育ちへ支援する視点)・子育ち(子ども自身が育つ視点)に関連した地域課題とともに,排他的で不自由な空間としての公園が描かれることもあった。

2017 年の都市公園法改正により,公園内保育施設の設置,公民連携,協議会による柔軟なルール作りにより,課題解決に向けた取り組みが進む。このような中,2022 年6月,子どもの権利条約に基づいた包括的法律「こども基本法」が公布され,子どもに関する社会課題を省庁横断的に取り組む「こども家庭庁」の設置が目前に迫る。

本特集では上記社会動向を踏まえ,「子ども」を切り口に地域課題を解決し豊かな地域づくりに資する拠点ともなりうる都市公園のあり方を検討することを目的とする。排他的で不自由なイメージから,子育て・子育ちの視点に基づき包括的で自由な都市公園の姿をどのように創出できるか,2つの視点から学術的知見を整理することとする。
1 都市公園は,子育て・子育ちの場として,どのような役割を担い,またどのような課題が存在するか。
2 どのような都市公園を舞台にした子育て・子育ち支援の実践があり,またどのように地域課題の解決に寄与しているのか。

特集は大きく3つより構成される。

まず「総論」では,子育ち・子育てにおける都市公園の役割・課題について,空間計画・教育・保育学の観点から知見を整理していただいた。

次に第Ⅰ部「公園と子育て」(p. 210~225)では,子育て支援施設・活動に焦点を当てる。待機児童問題に対する,都市公園内への保育施設設置に関する議論や設置後の影響について,園庭無・狭小の保育施設に
よる街区公園の活用や管理運営への参画実践について,人口減少の進む地方で公園を舞台とした子育て支援のあり方について論じていただいた。

最後に第Ⅱ部「公園と子育ち」(p. 226~243)では,子どもの遊び,自立的活動に着目する。思春期の子どもにとっての公園という場の役割や課題について,障がいの有無や多様な背景を持つ子どもが遊ぶことのできるインクルーシブな遊び場のマネジメントや既製品遊具の役割について,子どもとともに行うパークマネジメント,冒険遊び場・プレーリーダーといった支援者の必要性について論じていただいた。

ランドスケープの分野においては,約100 年前に大屋霊城氏が子どもの屋外遊びに関する調査を行い,同氏はこれらをまとめた「都市における児童遊場の研究」によって,東京帝国大学より公園計画で最初の農学博士を授与されている。以後,時代を経て現在に至るまで継続的に取り組まれている研究であるが,担当者が調べた範囲では,「子ども」という切り口からの当学会学会誌の特集は初めてとなる。少子化・屋内化が急速に進行するこの時代だからこそ問うべきテーマであると考え,本特集に至っている。子どもに関する社会課題を省庁横断的に取り組んでいく際には,本特集を積極的に参考としていただきたい。また学会員の皆様にも,我が国の今,そして将来を支える子育て・子育ちがよりよいものとなるよう都市公園,ランドスケープを舞台とした研究や実践的取組みを,ぜひとも積極的に展開していっていただければ幸いである。

(編集担当:寺田光成・五十嵐康之・井上綾子・根岸勇太・松本邦彦)

 

目次

総論

〇公園を舞台に子どもが育つ地域の社会関係資本を高める
木下  勇

〇保育・教育から見る都市公園の役割
秋田喜代美

〇都市公園における子どもの「遊び場」整備の変遷
寺田 光成

各論

〇公園に保育施設を設置することの課題:保育施設の開設反対事例の考察
後藤智香子

〇都市公園内に保育施設が設置されることによる機能補完や公園維持管理への貢献
松本 邦彦・西端 佑騎

〇まち保育:保育施設による身近な街区公園の活用とその価値
三輪 律江

〇地域に対して園を‘開く’ 保育園が担う公園管理
下村 一彦・酒井 咲帆

〇地方都市における都市公園を舞台とした子育て支援サービスの展開
市村 恒士・宮地  創

〇都市における思春期年代の居場所と公園の意味 -多世代共生の地域コミュニティ再生に向けて
萩原建次郎

〇障がいの有無に関わらず遊ぶことのできる遊び場づくり -東京都立砧公園みんなのひろばの管理運営
川崎 幹雄・嶋村 仁志・神林 俊一・寺田 光成

〇楽しく安全でアクセシブルでインクルーシブな遊び場づくりを考える
丸山 智正

〇子どものために,子どもとつくる公園リノベーション ~多様な住民参画を生み出す兵庫県立有馬富士公園での取組み~
福本  優・遠藤 修作・吉田 峰規・大根 裕士・守  宏美

〇超少子化時代の子どもの遊びと公園 ~冒険遊び場づくりとプレーカーの可能性
梶木 典子

※発刊からおよそ3か月後に、執筆者の許諾が得られた記事はJ-STAGEにて公開いたします。