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ランドスケープ研究85(4) 実践的なみどり

日本造園学会誌『ランドスケープ研究』85巻4号を2022年1月末に刊行しました。

特集:実践的なみどり Practical “Midori”

造園という分野を造園たらしめる要素のうち,その筆頭にも挙げられるべきものが「植栽」であろう。樹木をはじめとする植物を,どのように植え,育て,人々の営みの中に活かしていくのか。シンプルかつクラシックなことではあるが,そのための技術について,日本造園学会の学会誌であるこの『ランドスケープ研究』が正面切って特集する機会は,意外なことに,これまでなかったように思われる。植物は無頓着に植えて育つかと言えば,無論そうではない。どうすれば植物が育ち,ニーズにふさわしい景観を生み出すことができるか。そのための優れたノウハウを,長い年月をかけて醸成してきたのが日本の造園界であり,現代においても,都市化や
環境保全,産業構造や人口動態の変化といった諸課題に対応するため,新たな技術や制度を生み出しつづけている。これらの「植栽技術」を振り返り,これからのみどりに関する課題の解決に資するものにしたいというのが,本特集の目的である。

タイトルの通り「みどり」に関わる実務者・研究者の皆様に「実践的な」報告や提案をいただいている。街路樹管理を通して見えてくる植栽技術と体制・制度の変遷と課題。植生の保全・活用のための実践的な植生調査・計画。一貫性のある造園植栽を実現するための設計監理業務の必要性。環境圧の抽出と解決という視点から,実験を重ねた中で生まれてきた新しい技術。伝統的庭園が織りなす文化的景観における,植栽管理を通したエリアマネジメントの手法。地方の造園施工業界が置かれた植栽業務の機能不全状況。公共花壇におけるボランティアの多様化と多年草利用への課題と可能性。地域特性に合わせた樹種選定のための手法と指針。これまでの分業体制を打ち破ることのできる「ガーデンキュレーター」という職能の役割。計画的に多種多様な花卉を必要とするイベントにおける材料調達の実際について。以上のような,調査・計画・設計から施工・管理,監理やマネジメント,材料調達にいたるまでの実践的なみどりに関わる論考が集まった。加えて座談会では,伝説的な作庭家に学び,伝統的な造園技術を自ら発展させてきた造園家たちが,これまでの経験を語り,次世代の造園家たちに送る生の声を掲載する。

造園に関わる実務者はもちろん,研究者や何らかの形で「みどり」に関わる学会員の皆様にとって,本特集がいま一度植栽とその技術について考えるきっかけとなれば幸いである。

(編集担当:松崎 喬・山野秀規・清水一樹)


目次

総論

街路樹管理にみる技術と管理体制・制度の変化と課題
藤井英二郎

植栽のための植生調査・植生計画 ―多摩ニュータウンにおける事例
松崎 喬

造園植栽に一貫性を持たせるための実践的な流れ
山本紀久

論説

実験から生まれる新たな技術
直木 哲

「京都岡崎の文化的景観」をはぐくむ地域の活動 -伝統的庭園の植栽管理を事例に
加藤友規

地方都市における公共植栽工事の現状と課題
清水一樹

花壇ボランティアと植栽 -コミュニティガーデンコーディネーターの視点から
木村智子

樹木の特性に合わせた植栽技術
笠康三郎

ガーデンとマネジメント -ガーデンキュレーターの役割-
小島理恵

フラワーランドスケープと植物調達の関わり方
大橋尚美

座談会

造園技術の伝統と未来
鈴木 崇・廣瀬慶寛・寺下 弘・石井匡志・山本紀久・秋田典子・松崎 喬

 

※発刊からおよそ3か月後に、執筆者の許諾が得られた記事はJ-STAGEにて公開いたします。