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グローバル通信No. 12 台湾のまちづくり:旗山生活文化園區

温井 亨(東北公益文科大学)

【キーワード】:台湾、旗山、まちづくり

高雄県旗山はバナナの産地で知られるが、特別な都市ではない。地方の小都市にすぎない。紹介しようというのは、そこで行われている建築保存と、それを巡る都市観光の試みである。注1)旗山生活文化園區は、かつての日本人小学校校舎(写真1)を保存し、そこを拠点に地域の生活文化を見直す活動をしている。運動の中心を担う柯坤佑さんにお話を伺い、市街に残る歴史的建築を案内していただいた。建築めぐりは、柯さんを先頭に自転車に乗ってまわった。ここには貸し自転車(写真2)が用意してあり、観光客はここで自転車を借りて巡るシステムができている。見学したのは道教の寺院や、日本の植民地時代に建てられた様式建築の商店群(写真3)などであり、日本で言えばさしずめ登録文化財候補といった建築であった。

さて、この旗山生活文化園區の活動には大いに共感した。なぜかと言えば、山形で自分達が行っている活動とよく似ているからでもあるが、いまだ高度経済成長期にある台湾で、すでにこうした活動が行われていたからである。経済成長期とは建設ラッシュであり、歴史的な建築や風景は破壊されるものだと思っていたのに、こうした地味な活動が行われているとは!しかも、貸し自転車など、ある部分では先を越されている・・・

ただ、これは旗山生活文化園區の活動というより台湾全体の状況だと思われるが、一つ、驚きもし残念に思うことがあった。それは、歴史的なつくりの民家がほとんど残っていないということである。案内いただいた道筋に、一軒の壊れかけた煉瓦作りの住宅(写真4)が残っていたので写真を撮っていた。すると、柯さんが怪訝な表情で、何でこんなものを撮るのかと言う。そこで、道教の寺院なども大事だが、都市を形づくっていた、こうした庶民の住宅は同じ様に大事ではないかと申し上げた。言わんとするところはすぐご了解いただけたようで、帰国後に、柯さんが自分のブログにそのことを書いてくれたのを読むことができた。注2)

今回は旗山ばかりでなく、農村や田舎の小都市などを周ったのだが、農村部にも民家を見ることはできない。びっくりしたのは集落ごと集合住宅化したものまであったことである。我々がようやく農村で三合院を見ることが出来たのは、旗山のさらに奥、客家の多く住む美濃に至ってであった。

日本に追いつけ追い越せと、アジアの多くの国が急速な近代化工業化を遂げつつあるが、そのなかでまた、急速に文化が失われているような気がしてならない。

注1)我々が見てまわったのは建築だが、正確には公園、橋、山なども含まれ、景点(Scenic Spot)とされている。園區は、日本語に訳すと公園。

注2)旗山生活文化園區工作日誌  園區每日所見、所感、所做  2009年3月5日星期四
日本東北藝術工科大學教授來訪
http://clcp2009.blogspot.com/2009/03/blog-post_4109.html

写真1 旗山生活文化園區(旧鼓山小学校)

写真2 柯坤佑さんと貸し自転車

写真3 日本の植民地時代の商店建築

写真4 壊れかけた民家