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グローバル通信No. 11 ケニヤの私設野生生物保護区訪問記

中尾文子(国連大学)

はじめに

今年5月にケニヤの私設野生生物保護区であるオセリアンワイルドライフを訪れる機会があったので以下、紹介する。

1.ロケーション

グレート・リフト・バレー(大地溝帯)にある淡水湖であるナイバシャ湖の東岸、ヘルズ・ゲート国立公園の北に近接して位置する。ナイロビの北西約90km、車で2時間ほどの日帰り圏にある。

2.経営・管理主体

オセリアン開発社。1968年に野菜生産農場として設立。1981年から切り花生産を開始し、現在は東アフリカ最大級の花き農場を経営。なお、オセリアン開発社の花き農場に関連して、ケニヤ政府はラムサール条約第10回締約国会議(2008年)に提出した同国の国別報告書においてラムサール登録湿地であるナイバシャ湖辺の花き生産者により制定された利用者行動規約(code of conduct) は湖資源の賢明な利用に役立っている旨報告を行っている。(http://www.ramsar.org/cda/en/ramsar-activities-wwds-wwd2010-wi/main/ramsar/1-63-78%5E24364_4000_0__)

3.保護区の概要

保護区自体は18,000エーカー(約7300ha)からなり電気柵で囲まれている。電気柵は数m程度で動物の多くは飛び越えることが可能でありむしろ人間の不法侵入対策とのことであった。また、隣接してオセリアン開発社が同じく保有し、野生生物に提供している3,000エーカー(約1,200ha)のコリドーがあり、野生生物はロンゴノット山、ヘルズ・ゲート国立公園とオセリアン・ゲーム・コリドー及びナイバシャ湖を自由に行き来しつつ、柵が障害とならない動物(ライオン等)は保護区内外をも行き来しているとのこと。

フラッグシップ種としては絶滅危急種であるシロサイ、絶滅危惧種であるグレービーシマウマ、クロサイ及びヒョウ等などが挙げられる。特にシロサイについては自然繁殖に成功し1996年に導入したものの第2世代の繁殖も見られており、当初の6頭から10頭余りまで増加しているとのことであった。
また、ケニヤ野生生物局とも連携しており、国立の保護区における頭数管理上、削減対象となった個体を対価を支払ったうえで引き取っているとのことであった。

(以上、オセリアンワイルドライフ総支配人John Round-Turner氏からの聞き取り)

なお、絶滅危惧種であるハイガシラメガネモズの世界最大の個体群を始め、300種以上の鳥類の種が確認されているとのことである。哺乳類については、先に挙げたフラッグシップ種以外に、ライオン、バッファロー、サーバルキャット、ツチブタ等の約40種余が生息しているとのことである。(http://www.oserian.com)

4.サファリツアー

サファリツアーは宿泊者グループごとに、保護区内を車でめぐる時間や回数、経路についてオーダーメードでアレンジできる形態であった。我々は初日、17時からツアーに出発し、約4時間弱、日中、黄昏、夜のいずれも広大で野生動物の息遣いが感じられそうな風景であった。翌日は、朝6時からやはり4時間弱、朝の清冽な空気の中、朝もやの中でゆったりと草を食むバッファロー等を観察することができた。

写真1.保護区ゲート  ©F.NAKAO

写真2. 保護区風景    ©F.NAKAO

写真3.レオパードの子  ©F.NAKAO

写真4.人為的に作られた水場 ©F.NAKAO

5.宿泊施設

同保護区は宿泊施設区域は2箇所しか設置されておらず、そのうち我々が利用したChui Lodgeは主にプライバシーが保たれる形で戸建てされた8つのコテージと、食事や読書等を行うことができるリビングレストラン、受付から構成されていた。いずれも、工芸品を用いて内装されており、ゆったりとくつろげる空間となっていた。また、宿泊施設区域は、大型動物が侵入できないよう電柵が設置され、植栽が施された庭園的な空間となっていた。

写真5.受付      ©F.NAKAO

写真6.内装      ©F.NAKAO

写真7.電柵        ©F.NAKAO

写真8.植栽      ©F.NAKAO

まとめ

ナイロビから同保護区に至る道中、廃墟のような建造物が立ち並び粗末な身なりの人々が道端で何をするでもなく座っている町が点在する。同保護区に限ってではないが、ケニヤの富裕層向け施設の豊かさと圧倒的多数の人々が暮らす環境の貧しさがあまりに対象的で、心の中で割り切れないものがあったが、素晴らしい風景とそれをゆったりとくつろげるよう配慮して整備された施設やサービスは、わが国のリゾート地における宿泊施設整備を行う上で参考になる点が多いにあると思われた。なお、同社によれば、宿泊施設からの収益は、保護区の管理に全て充てられているとのことである。