ホーム » グローバルランドスケープ通信 »

グローバル通信No. 09 ラスベガス・シティーセンターに学ぶ都市の未来

Destination Cities: Learning from City Center in Las Vegas

近江 明 Aki Omi
(Design Principal, AECOM Design +Planning San Francisco Studio)

世界同時不況の風がまだ吹き止まぬ昨年の暮れ、アメリカ史上最大の民間プロジェクトであるCity Centerがラスベガスにオープンした。

今回のプロジェクトをスタートするにあたり、City Center のBobby Baldwin氏は、都心の繁華街における密度や複合性といった都市的要素(アーバニズム)に着目し、開発に取り入れることでラスベガスの活性化を目論んだ。

ラスベガスは、ネバダ州の広大な砂漠にあった小さな町が1931年のギャンブル合法化とともにカジノを中心としたエンターテイメントキャピタルとして発達し、今では多くの退職者も移り住む人口50万人のリゾート・デスティネーションとして成長をとげた。その成長過程のなかで、この街はどの時代においても人々を引き付けるための仕掛けをとりいれ、変貌を繰り返してきた。ラスベガスは、昔から魅力で溢れたデスティネーションとして存在し続けようとしてきた。いや、それがラスベガスの生まれ持った宿命であり、DNAなのである。
今回このラスベガスで、City Center がその名のとおり「都心(CITY CENTER)」を開発のモデルにしたことは大変興味深いことである。ラスベガス通り(STRIP)に面した67エーカー(27.1ヘクタール)の敷地内には、6人の著名建築家によりデザインされたホテル、サービスレジデンス、コンドミニアム、商業施設(延べ床面積18,000,000平米)が立ち並ぶ。魅力ある建築郡が密集して立ち並ぶランドスケープは、今までのラスベガスにおける仮想的は風景とはかけ離れており、これらを繋ぐ公共空間とそこに注意深く配置されたアートコレクションには誰もが魅了させられるであろう。また、今回のプロジェクトでは、6つの建物がLEEDプログラムのGOLDを得ていることも評価される点である。

もちろん、このプロジェクトが実際にラスベガス市の中心(センター)として機能するとは考えがたく、ましてやここに新たなコミュニティーが形成されるようなことは誰も期待していないように思われる。しかし、ここで私が着目したいのは、今まで色々な手法で活性化を図り、仮想的(バーチャル)なデスティネーションとして生き残ってきたこの場所で、今回は都市のアーバニズムというきわめてリアルな課題を開発のテーマにとりあげたことである。
私はここ数年中国を中心に仕事をしてきたのだが、中国では逆にリアルであるべき都市を計画するにあたり、バーチャルな要素を多く含んだプロジェクトに出くわすことが多々ある。

例えば既存の都心から数キロしか離れていないような場所で、エコを目玉とした新たなCBD(セントラル・ビジネス・ディストリクト)の計画が行われている。このような場合、多くが既存の都心の老朽化や衰退から目をそらし、経済活性化のためだけの到底サステイナブルとは思えない計画が進められていたりする。

また上海近郊の副都市においては、リゾートの要素を取り入れた計画が進められているのだが、その際その土地の気候には適していないトロピカルリゾートをモデルとしたマスタープランが描かれている。また、最近ではエンターテイメントビジネスの大手がコンサルタントとして都市計画に参加していることも稀ではない。

このように、近年のマスタープランや都市計画の流れを見ていると、バーチャルとリアリティーが今まで以上に混在する方向へと向かっているように思われる。これは、近年どんどん加速するグローバル化と都市化という二つの現象からくる都市のデスティネーション化からくるものなのではないかと思われる。

昨年(2009年)は、初めて都市人口が地球人口の50%を超えた年であった。もちろんこの背景には、中国のように一定の地域における高度成長からくる急激な都市化が影響している。しかし、世界人口の半分以上が都市という環境の中で暮らし始めた今、都市の構造や機能はこの需要に対応すべく進化を求められている。また同時に、都市は人が暮らすための場としての魅力を十分に含む必要があると思われる。

一方、グローバル化が進むにつれ人々は遊牧民と化し、理想の場所を追い求めて安易に移動するようになった。その結果、Global化は世界を均等化しフラットにするという仮説とは裏腹に、Richard Flordia氏が指摘するように、魅力あふれた少数のグローバル都市が勝ち組となり成長を続けることで、格差を生み出し始めている。こうしたグローバル社会でどうにか勝ち組になろうと、たくさんの都市が理想のあり方を模索しだしている。

生まれ育つ場所から、移り住む場所へと変化した都市は、今後ますますデスティネーション化していくだろう。人々は近い将来、バケーションの行き先を選ぶ感覚で、住むための都市を探し始めるようになる予感がする。そうなると、都市はますます人を引き付けるための魅力を備え付ける必要があり、そのときにはある一定のリアリティーと人々の想像をこえたバーチャルなものが混在してくるのではないかと思われる。