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グローバル通信No. 06 極東ロシア・ハバロフスク市におけるランドスケープと自然とのふれあいの様相

City people’s life style with nature in the Far East Khabarovsk region

高山範理(独立行政法人森林総合研究所 森林管理研究領域)
Norimasa TAKAYAMA (Department of Forest Management, Forestry and Forest Products Research Institute)

キーワード:極東ロシア、自然とのふれあい、ランドスケープ、多様性

1. はじめに

日本と極東ロシアは国境を接しているが、これまでに両国の交流は疎遠だったこともあり、お互いのランドスケープや自然とのふれあい方に関する情報はあまり多くない。しかし、他国の情報を知ることは、私たち自身の生活や選択肢に多様性をもたらす良い機会である。そこで、今回は極東ロシアで最も大きい都市のひとつであるハバロフスク市におけるランドスケープと都市民の自然とのふれあいの様相について紹介する。

2. 都市部における自然とのふれあい

ハバロフスク市は支流を含むと全長4,444kmのアムール川岸に築かれた、ハバロフスク州の首府であり極東地方の交通の要所である。また、約70万人の人々が暮らす極東ロシア最大の都市である。中国との国境が近いので、今後のさらなる発展が期待されている。

少し、街の様子にふれておくと、旧ソ連時代にはロシア正教を含む全ての宗教が迫害されていたため、宗教建築物も破壊され管理放棄されることが多かった。その反動もあり規制が緩和された最近になって、街のあちこち教会などが建設されている。特に新たに改修された教会建築は、昼間は街のランドマークとして、ライトアップされた夜には、市民の集う憩いの場として荘厳で厳かな風景を醸し出している。

その都市部では、教会建築群と一体的に供されるオープンスペースや緑道、ディナモ公園を始めとする大規模な都市公園や緑道が人々の日常的な自然とのふれあいの場所になっている。また、連邦政府や州政府などのガバメントハウスの前庭が、都市公園風の緑地帯および広場になっていることが多く、普段は都市民の日常的な憩いの場となっている。

3. 郊外域における自然とのふれあい

熱効率などの合理性の面から、普段、多くの都市民は都市部の密集したアパートメントで暮らしている。しかし、週末や長期の休暇になると、それぞれが所有するダーチャ(田舎の邸宅)とよばれる別荘(ソ連時代から希望者には国家から供給された)に出かけ、そこで家庭菜園などを楽しむ習慣がある。大抵の場合、ダーチャは地域の中でも都市部から少し離れた郊外にあり、普段、密集して住まざるをえない都市民が、郊外の自然にふれる良い拠点になっている。たとえば、アムール川畔の別荘地は、夏は涼しく冬の景色も良い風光明媚な場所にある。川岸は広大な砂浜になっている。現在は、2005年に中国で起きた石油化学事故による汚染のため泳ぐことはできないが、それでもなお短い夏を楽しむロシアの人々が、その砂浜で水着に着替えて日光浴をするなどの風景がよくみられる。

4. 自然地域における自然とのふれあい

ハバロフスク市の中心部から23kmほど、車で30分ほど移動した先のアムール川の中洲にハバロフスク州立のブルシェクヘクツィルスキー自然保護区がある。1963年に設定された自然保護区であり、都市部に近いことから、夏場には多くの都市民の利用がある。面積は約45,000haで、夏季は平均21℃(最高37℃程度)、冬季は平均マイナス23℃(最低マイナス46℃程度)と非常に気温の変化が激しい。保護区内は93%以上がタイガ帯の森林であり、カバノキ類、トウヒ類、ナラ類など日本の寒冷地で見られるような落葉広葉樹林や草本が多くみられる。また、シベリアトラやシベリアグマなどの危険な野生動物が多く生息する地域である。

私たち日本人にとっては、少し野性的過ぎるかもしれないほどの自然環境であるが、ハバロフスク市民にとっては、夏場にはキャンプや山菜取りなどに利用可能な貴重な自然とのふれあいの場所のひとつである。保護区の利用拠点には、利用者の多様なニーズに応え、来訪者がより楽しめるように、林内を流れる小川のすぐ傍にバーニャと呼ばれるサウナや宿泊施設を併設しており、管理事務所に申し込めば誰でも利用できるシステムになっているようである。

5. おわりに

極東ロシアのハバロフスク地域では、アムール川が地域の景観的構造を支える基盤である。また、同様に都市民に様々な形で自然とのふれあいの機会をもたらす基幹資源となっている。ハバロフスク市民はそのアムール川がもたらす恵みを様々な形で利用することで、シベリアの強烈な気候の変化を乗り越え、季節を通じ場所を変えて、暮らしの中で多様で豊かな自然とのふれあいを享受しているのである。

Fig. 1 Center street in Khabarovsk

Fig. 2 A church lit up

Fig. 3 Kitchen garden of dacha

Fig. 4 People in the sunshine

Fig. 5 Inside the wildlife park

Fig. 6 Family of Geranium erianthum