ホーム » グローバルランドスケープ通信 »

グローバル通信No. 17 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の結果と今後の取組

渡邉綱男(環境省自然環境局長)
Tsunao Watanabe (Director General, Nature Conservation Bureau,
Ministry of the Environment of Japan)

鳥居敏男(環境省自然環境局生物多様性地球戦略企画室長)
Toshio Torii (Director, Global Biodiversity Strategy Office,
Nature Conservation Bureau, Ministry of the Environment of Japan)

1.はじめに

生物多様性は人類に様々な生態系サービスをもたらし、私たちが生きていく上で必要不可欠な存在である。しかし生物多様性条約事務局が2010年5月に発表した地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)では、「生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という条約の2010年目標は「達成できなかった」と評価された。さらにGBO3では、このまま生物多様性の損失が続けば、人類は生態系が自己回復できる限界点(Tipping Point)を越え、将来世代に対し取り返しのつかない事態を招くと警鐘を発している。

2010年10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)は、言い換えれば人類が如何にしてこの限界点を越えないようにするかを議論する場と言える。本稿では、COP10の概要と今後の取組方向について簡単に報告したい。

2.COP10の結果概要

COP10では多岐にわたる事項が議論され、計47の決定文書が採択された。この中でも特に重要なのは、2011年以降の条約の新戦略計画と、遺伝資源へのアクセスとそこから生まれる利益の公正な配分(ABS)に関する議定書である。 2002年のCOP6で採択された条約の2010年目標が達成できなかったことは既に述べたが、2011年以降の新たな戦略計画は最終的に長期目標、短期目標そして20の個別目標などから構成され、このうち個別目標は「愛知目標」として採択された(図1、2参照)。 またABSについては、遺伝資源から得られる利益の確保を確実なものにしようとする先進国と、利益の配分をできるだけ広く行うべきだとする途上国との間で激しい意見の対立があったが、最終的には先進国、途上国双方の主張に配慮した議長提案が受け入れられ「名古屋議定書」として採択された。 さらに、二次的な自然環境(人手が入っている農地・林地など)の持続可能な利用を目指し日本から提案した「SATOYAMAイニシアティブ」が、多くの途上国からの支持を得て採択された。また、同イニシアティブの活動主体となる国際パートナーシップも10月19日に9カ国を含む51の機関や団体などによって発足した。 このほか、科学的知見を政策決定に反映させるための生物多様性版IPCCとも言われる「生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」や2011年からの10年間生物多様性の保全と持続可能な利用に国連全体でしっかり取り組むことを奨励する「国連生物多様性の10年」が、COP10での採択を経て、昨年末の国連総会でも決議された。 3.今後の課題 上述のようにCOP10では多くの決定事項を採択し、環境関係の国際会議では久しぶりに大きな成果を収めることができた。これは各国の閣僚レベルが議論をまとめようと一定の「勇気ある譲歩」を行った賜と言える。 今後、日本は2012年にインドで開催されるCOP11までの間、議長国として愛知目標や名古屋議定書をはじめとする様々な決定事項を率先して実行していく必要がある。国際的な取組としては、愛知目標を踏まえた途上国の生物多様性国家戦略の見直しの支援やSATOYAMAイニシアティブの推進、名古屋議定書の運営体制の確立、IPBES設立の支援などが挙げられる。 また国内の施策強化としては、COP11(2012年)までに愛知目標を踏まえて生物多様性国家戦略の見直しを行うとともに、国立・国定公園などの保護区域の拡充や海域の保全強化、希少野生動植物の保全を図っていく考えである。 愛知目標は決して政府だけの取組で達成できるものではなく、企業・事業者・自治体・NGOなど様々な主体による取組も重要であり、「国連生物多様性の10年」決議を踏まえ、国内での各セクターへの働きかけを一層強化していきたい。
COP10開会式

白熱する議論

COP10閉幕の瞬間

会場周辺で開催された生物多様性交流フェアー

「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ」の発足式典