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グローバル通信No. 10 小笠原諸島の世界自然遺産推薦について

Nomination of the OGASAWARA ISLANDS for Inscription on the World Heritage List

羽井佐幸宏(環境省自然環境計画課世界自然遺産専門官)
Yukihiro HAISA (Technical Official, Biodiversity Policy Division, Ministry of Environment)

中村孝(林野庁研究・保全課環境保全専門官)
Takashi NAKAMURA (Senior Technical Officer, Research, Extension and Environment Policy Division, Forestry Agency)

日本政府は、平成22年1月25日に、ユネスコ世界遺産センターに対して、小笠原諸島を世界遺産一覧表に記載するための推薦書を提出した。これを受けて、同年7月2日から15日にかけて、世界遺産委員会の諮問機関である国際自然保護連合による評価のための現地調査が実施された。

本稿では、小笠原諸島を世界遺産一覧表に記載するための取組の概要を説明したい。

1.小笠原諸島の推薦の概要

世界遺産一覧表に記載されるためには、世界遺産委員会及びその諮問機関により、世界遺産委員会の定める記載基準に照らして顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)を有すること及び将来にわたって保全されることが認められなければならない。

①小笠原諸島の価値

小笠原諸島の顕著な普遍的価値については、学識者からなる委員会に参加する第一線の研究者から最新の科学的知見に基づく助言を踏まえ、次のように整理した。

ⅷ)地質・地形(地球の進化史)

推薦地は、地球上の大陸形成の元となる海洋性島弧が、どのように発生し成長するかという進化の過程を、陸上に露出した地層や岩石から解明することのできる世界で唯一の場所である。

ⅸ)生態系(生物進化の過程)

推薦地の生物相は、大陸と一度も陸続きになったことのない隔離された環境下で、様々な進化をとげて多くの種に分化した生物から構成され、固有種率が高い。推薦地は海洋島生態系における進化の過程を代表する顕著な見本である。

ⅹ)生物多様性(希少種の生息・生育地)

推薦地は、限られた陸域でありながら、固有種を含む動植物の多様性に富んでおり、オガサワラオオコウモリやクロアシアホウドリなど世界的に重要とされる絶滅のおそれのある種の生息・生育地でもあり、北西太平洋地域における生物多様性保全のために不可欠な地域である。

父島・バードサンクチュアリ

北硫黄島

②法的な保護措置

小笠原諸島では、例えば生物進化の価値を示す乾性低木林がまとまって分布している兄島の大部分が小笠原国立公園の普通地域であるなど、既存の保護区では担保が不十分であることが、推薦に当たっての課題であった。

そのため、各機関がそれぞれの所管する法制度を用いて、推薦地の保護措置を強化してきた。その結果、推薦地は、南硫黄島原生自然環境保全地域、小笠原国立公園、森林生態系保護地域等によって、厳正な保護を図ることが可能となった。

③外来種対策

小笠原諸島の保全管理上の最大の課題が侵略的な外来種の対策である。小笠原諸島では推薦書の提出に先だって、関係機関が連携して様々な対策を実施してきた。環境省によるクマネズミの根絶作業の実施、林野庁によるアカギやモクマオウの対策、東京都によるノヤギ対策の実施などで多くの対策を実施し、成果を上げつつある。
例えば、東京都による聟島列島でのノヤギ根絶の達成によって同列島でのクロアシアホウドリの個体数が増加し、戦後はじめて、父島列島の孫島でのクロアシアホウドリの繁殖が確認されたことは、外来種対策の目に見える成果の一つである。

2.国際自然保護連合による現地調査

これらの成果を踏まえて我が国が提出した推薦を受けて、平成22年7月1日に国際自然保護連合の評価者2名が来日した。3日から14日まで、小笠原諸島の有する自然環境の価値について、推薦書の作成に関わった多くの専門家から現地で直接観察しながら説明し、関係機関から保護制度や保全管理について丁寧に説明した。およそ10日間の日程で、小笠原諸島のほとんどすべての側面について説明を行った。

向島・乾性低木林

父島・グリーンアノールのトラップ

母島・貨幣石(大型有孔虫の化石)

3.世界遺産一覧表への記載に向けた今後の動き

今後、提出された推薦書及び現地調査の結果に基づいて、より幅広い専門家の意見照会が行われる予定であり、その結果も併せて、国際自然保護連合により評価書がとりまとめられる予定である。この評価報告書には、小笠原諸島を世界遺産一覧表に記載すべきか否かについての勧告が付されることになる。この勧告に沿って、平成23年の世界遺産委員会において記載の可否が決定する予定である。